昭和3年(16陽会)1928年

NO7

 

☆阪神大博覽會主催全國中等選抜野球大會の本縣代表に選ばれる☆
 八月下旬舊チーム名古屋遠征後チームの中堅所五人を引き抜かれ大なる痛手を
 負ひしかど丸山新主将よく一同を統一して新チーム完成に力を傾注す。
 其の間神港中學を 十三對一、神戸市役所を九對一の大差にて破り専心技を練
 る、されど十月上旬、十一 月の初めに開かれる阪神大博覽會主催の全國中等
 學校選抜野 球大會に本縣中等學校代表として推薦され此に再び舊チームの練
 習を開始せり。


《武 陽》
◎對北野中學戰
 昭和3年10月14日(日)寶塚球場
いよいよ夏の本調子にもどり十四日北野中學と干戈を交ふ、前半敵投手二中の猛打を防ぎしが調子立づ武陽軍の猛襲をさける術なく我が軍門に下る。其れに引きかへ至寶大橋の出來よく回を重ねるに随ひいよいよ凄味を加へ遂にノーヒットの記録をつくり凱歌がナインに上る。

☆大橋、北野中學をノーヒットに抑える☆
 北野中學 000 100 000=1
 神戸二中 001 002 14A=8


 〔北野中〕 打得安四三犠盗失
       數點打球振打壘策
 4 安 田 40000000
 5 三 宅 40000000
 8  林  41001000
 2 矢 野 40001000
 6 淺 岡 40001000
 9 中 島 40001000
 1 渡 部 30012000
 7 宰 田 30012000
 3 坂 野 20011010
   合 計 221039010

 〔神二中〕 打得安四三犠盗失
       數點打球振打壘策
 8 山 本 42110000
 6 池 田 42110032
 5 丸 山 40201111
 3 田 中 50300000
 1 大 橋 41000010
 2 前 田 41201012
 4 牧 野 21111102
 7 志 摩 30001100
 9 別 所 21010110
   合 計 3281044477

◎對育英商業戰 昭和3年10月25日(木)神戸二中

   (敵失)200 00=2
    (安打)330 21=9
 神戸二中 520 30=10
 育英商業 000 00=0

    (安打)000 00=0
    (敵失)000 01=1

 〔二 中〕    〔育 英〕
 8 山 本    6 藤 原
 6 池 田    7 和 田
 5 丸 山    8 龍 田
 3 田 中    5 鈴 木
 17 大 橋    2  伴 
 9 別 所    4 松 本
 2 前 田    3 前 田
 7 志 摩    9 江里口
 7 津久居    1 野 澤
 4 牧 野

◎對和歌山商業戰 昭和3年10月28日(火)藤井寺球場
いよいよ大會も近づき仕上げの試合を南海の雄和歌山商業と行ふ。長い間車にゆられた後とて前半に思ひ切った活動は見られなかったが、後半平静をとり返すと共に攻撃にうつり遂に撃破す。

第一回。(和)柴田四球に出でしも佐々木、上田三振、廻口左邪飛。
(二)山本四球に出で池田遊飛後二盗なり丸山も四球、續く田中左前安打して一死滿壘の好機を迎ふ、次打者のとき投手暴投して山本、丸山生還。田中三進、大橋の右飛に本壘をつきしも野手好投にダブラル。されど二點を先取して氣上る。

第二回。(和)木本三匍、蜂谷三遊間に安打せしも杉原三振後、中野の二匍に封殺。
(二)前田三振、牧野四球に出でしも志摩の二匍に封殺、別所二飛して續かず。

第三回。(和)津野右前安打せしも二盗ならず。柴野の中前安打野手後逸して三壘打となる。佐々木とのスクヰズなり柴野生還一點を回復して追撃急なり、上田二邪飛。
(二)山本四球、池田の一匍に二進、丸山の中前安打に本壘をつきしも刺さる、田中四球に出で、丸山とのダブルスティールなりしも大橋中飛して退く。

第四回。(和)廻口左前安打、木本に送られしも、杉原中飛、中野投飛して無為。
(二)前田二遊間安打、牧野の三匍に封殺されしも志摩の右越二壘打に走者二三壘による、別所輕くプッシュすれば投手横の小飛球となり投手拾って本壘に投ぜしも間にあはず牧野生還。志摩三進、別所二盗すれば捕手高投し志摩生還、別所も三壘を望みしも刺さる。山本二匍、二中更に二點を入れる。

第五回。(和)津野投匍、柴田二匍、佐々木、大橋打者の墟をつき守備鐵桶。
(二)池田左飛、丸山投匍後田中左前安打、大橋四球に續きしも前田投匍して入らず。

第六回。(和)上田遊匍、廻口四球に出でしも木本左飛、蜂谷中飛。
(二)牧野三遊間安打、志摩二側安打に續き別所の投前バントに二者進壘、三壘を出すぎた牧野投手に謀られて刺されしも三壘手二壘に暴投して志摩三進。山本投手背後の安打に志摩生還、山本野手ハンブルに二壘を望みしも刺さる。

第七回。(和)杉原三振、中野二飛、津野三振。
(二)池田二遊間安打に出で二盗、丸山の遊匍に三進、田中遊飛、二死となる、大橋四球に出でしも前田右飛して無為。

第八回。(和)柴田の投匍大橋の美技に防る。佐々木遊匍に出で上田の遊匍又失しカヴァーせる中堅手も逸して佐々木生還、上田二壘によれど廻口の投直にダブらる。
(二)牧野遊匍、志摩三飛、甲斐左飛。

第九回。(和)木本三振、蜂谷投匍、赤木四球に出でしも二盗ならず、かくて和歌最後の攻撃も甲斐なく恨みをのむ、武陽意氣悠々武陽城に凱す。

 和歌山商 001 000 010=2
 神戸二中 200 201 00A=5


 〔和歌商〕 打得安四三犠盗失
       數點打球振打壘策
 8 柴 田 31110000
 6 佐々木 31001110
 2 上 田 40001011
 7 廻 口 30110000
 1 木 本 30001100
 3 蜂 谷 30110000
 5 杉 原 30002000
 5 赤 木 00010000
 4 中 野 30000000
 9 津 野 30101000
   合 計 282446221

 〔二 中〕 打得安四三犠盗失
       數點打球振打壘策
 8 山 本 21100012
 6 池 田 40110012
 5 丸 山 31110020
 4 田 中 30220020
 1 大 橋 20001010
 2 前 田 40110002
 4 牧 野 31000000
 7 志 摩 42000000
 9 別 所 20000110
 9 甲 斐 10020000
   合 計 285671186
(備考)甲斐、別所に代り八回赤木、杉原に代る。

《武 陽》
【阪神大博覧會主催、全國中等學校選抜野球優勝大會出場記】

 前記せし如く我等がナインが腕を撫して待ちに待った十一月二日は來た。
 集るもの八校必勝の意氣高し。

▽第一回戰 平安中學戰 昭和3年11月2日(金)甲子園
常勝を誇る西京の剛雄平安中學に見ゆ。今夏ダイヤコーチ戰に幸ひよく凱歌を奏したりといへ敵もさるもの復讐の氣高く必死の勢ひもて武陽城に迫る。我が九勇士、江戸の敵を長崎と甲陽に敗けし恥を雪がんと日頃鍛えし腕を示すは此の時ぞと返り討の志堅く千餘の校友に守られ恨みぞ篭る甲子園原頭へと馬を進めける第一戰は七回戰なり。
二時半二中先攻にて火蓋は切られた。

第一回。(二)山本慎重に四球に出づ、別所二度バントをし損ぜしも二−○後プレートの眞中の直球何條のがすべき強打すれば絶好の一、二間を破る安打となり山本三進、別所二壘を望みしも野手好投に刺さる。丸山○−一後スクヰズ成り山本生還一點を先取す、大橋投飛して退く。

(平)稻田二−一のつり球を強引に打てば右中間三壘打となる、次打者の時投手暴投して稻田生還せしも内牧、西村共に三振、伊藤兄遊匍。伊藤、大橋共に好調、伊藤速球を打たる、彼もさるもの盛に曲球を以て防ぐ大橋思はぬ一點を献ぜしも堂々たるピッチングを示す。

第二回。(二)田中三振後、池田四球に出で次打者の時捕手ハンブルに二盗せしも成らず、前田四球に出でしも牧野三振して退く。
(平)山本遊匍、伊藤弟あたり損ねの球は右翼線二壘打となる。されど内海二飛、香椎三振して無為。

第三回。(二)志摩一−二後遊撃右に安打して先づ脅かす、山本強氣に出で二−○後右中間深く三壘打して志摩生還、一點勝ち越す、續くは別所である。投手横に軟打すれば投手間に合はずと見て別所を刺す間に山本生還、更に一點を増す、敵を降伏せしむるは此の時ぞと丸山一−二後を奮打すればクリーンヒットたり。流石の伊藤もプレイトを内牧に譲り一壘に退く。大橋捕邪飛に倒れたれど次打者の時投手暴投に三進す。もう一點と望まれたが田中投匍してやむ。

(平)津田左前安打に出しも稻田三振、内牧の投匍に封殺、西村の投匍投手逸して兩者生く、されど伊藤兄中飛。
武陽軍三安打を奪ひ二點を強取頓に氣上る、痛快なり伊藤をノックアウトす。

第四回。(二)池田三振、前田二匍、牧野三振。
(平)山本四球に出で伊藤弟遊匍すれば池田失して兩者生く。内海定石通り大危機武陽軍を襲ふ、されど大橋平然なり香椎を再び三振に打ちとりよくあたってゐる津田を四球に敬遠して出す、續く稻田、大橋のカーヴに手も足も出ず三振して退き武陽軍陣あかるし。

第五回。(二)志摩三振、山本四球に出で別所の左前安打に二進す、丸山の遊匍は別所を二壘に封殺せしも山本二進、次打者のとき丸山二盗し又投手暴投に山本生還、丸山も一擧本壘をつきしも壘寸前に刺さる。
(平)内牧四球に出でしも西村三振、伊藤投飛。山本三振して退く。

第六回。(二)大橋投匍失に出づ、田中右飛後池田四球に續きしが前田二匍、大橋牽制球にたほる。
(平)伊藤四球、内海投飛、香椎三振に凡退せしが津田四球に續く、此の時伊藤三盗なる。稻田三遊間を抜き伊藤還り一點回復、好機續きしも内牧中飛して無為。

第七回。(二)試合は四−二、二中の有利裏にラストインニングに入る。牧野一匍、志摩三側安打に出でしも山本右飛後別所の遊匍に封殺。
(平)西村三振、伊藤兄四球に出でしも山本三振、伊藤弟二匍して萬事休し凱歌再び武陽城に昂る、賞すべし雨中に渾身の勇を振ふ我が九勇士悲壮なり、校友の喜びを見よ嬉しからずや。サンキューよくやった……等耳を聾せんばかりの中を武陽軍は静かに退場す。不運なりし夏を回顧して泣きしもいくばくかある。

 神戸二中 102 010 0=4
 平安中學 100 001 0=2


 〔二 中〕 打得安四三犠盗失
       數點打球振打壘策
 8 山 本 23120000
 9 別 所 30200100
 5 丸 山 20100110
 1 大 橋 30000000
 3 田 中 30001000
 6 池 田 10020000
 2 前 田 20010002
 4 牧 野 30002000
 7 志 摩 31101000
   合 計 224554212

 〔平安中〕 打得安四三犠盗失
       數點打球振打壘策
 6 稻 田 41202000
 31 内 牧 40101020
 2 西 村 40003000
 13 伊 藤 30010010
 8 山 本 30012000
 7 伊藤弟 31010010
 5 内 海 30000100
 9 香 椎 30003000
 4 津 田 10120000
   合 計 2824511140
(備考)第三回大橋打者の時より内牧投手になる。

〈朝日新聞〉
[阪神博主催選抜中等學校野球大會]

昭和3年11月2日(日)甲子園 午後2時20分=4時25分 球審・清水、壘審・原口
 神戸二中 102 010 0=4
 平安中學 100 001 0=2

 (7回ゲーム)

 〔神戸二中〕      〔平安中學〕
 中 山 本 24打 數20 遊 稻 田
 右 別 所 2安 打3 一投 内牧
 三 丸 山 5三 振7 捕 西 村
 投 大 橋 5四死球5 投一伊藤兄
 一 田 中 1盗 壘1 中 山 本
 遊 池 田 2失 策5 左 伊 藤
 捕 前 田 0二壘打1 三 内 海
 二 牧 野 1三壘打1 右 香 椎
 左 志 摩       二 津 田
             二 和 田

二中は今春ダイヤコーチリーグで平安を破ってゐるので飽まで勝氣に出で降りしきる雨を物ともせずよく投げよく打ち終に四對二のスコアーで平安の堅陣を粉碎した。

◎二中◎
〔一回〕山本四球出で別所の二匍失で山本一擧三進し丸山の一匍失に生還。(この時より雨降り出す)
〔二回〕田中三振、池田四球に出たが二盗ならず、前田も四球に出たが後續なし。
〔三回〕一死後山本右中間を深く抜いて三壘打となし別所の二匍に生還、丸山二飛、大橋捕邪飛、田中投匍。
〔四回〕池田三振、前田遊飛、牧野三振。
〔五回〕志摩三振後山本四球に出て別所の左前安打に二進、投手暴投に山本生還し計四點を入れ頗る優勢。
〔六回〕二死後池田四球に出たが前田二匍。
〔七回〕一死後志摩三壘を失せしめて走者となったが山本、別所凡打に點とならず。

平安
〔一回〕劈頭稻田中越三壘打を放ち内牧、西村ともに三振したが投手の暴投に稻田生還、伊藤兄二匍。
〔二回〕一死後伊藤弟右翼右に二壘打し有望と見えたが内海二飛、香椎三振。
〔三回〕津田左前安打に出で稻田三振、内牧凡打の後ち西村二壘右を抜く安打に二走者を出したが伊藤兄中飛して點とならず。
〔四回〕山本死球を喫し、伊藤弟二匍失に出で無死二走者を出したが大橋よく投げ危機を脱す。
〔五回〕内牧の中前安打あったのみ。
〔六回〕伊藤弟四球に出で内海、香椎凡打後津田も四球を利し稻田の遊匍失に滿壘となり好機と見られたが内牧の2−3後の中堅右の打球は、野手山本好捕する所となって點とならず。
〔七回〕平安最後の攻勢に出で西村三振、伊藤兄四球、山本三振、伊藤弟二匍に萬事休し四對二で二中勝つ。