昭和3年(16陽会)1928年

NO4

《武 陽》
◎第六戰。本校對平安中學
 昭和3年6月30日(土)甲子園
六月三十日、縣下の梟雄神港商業を破り、大阪府下の強剛北野中學を一蹴せし我軍は、この日京洛に※足辺に番=はん=踞して中原の鹿を窺はんとする平安中學と相見ゆ。彼は姫中を粉碎し、甲陽を撃破し、神港を蹴散らせし、兵庫勢にとりては甚だ苦手なるものゝ我軍緊褌一番勢ひ凄く衝きけり、されど彼は武陽魂を提げて剛健を標榜する我軍の敵にはあらざりき。戰ふこと九合二A對一の記録を以て之を破りぬ。
審判=小柴、橋本兩氏。

第一回。(平安)零−二後福田の物凄き當りライナーとなりて遊撃を襲へば主将池田亂れず、香椎二壘ゴロ、津田三壘ゴロに退く。
(二中)トップバッター山本四球を奪って出でしも、續く太田のバントこれ絶好と見えしかど、老巧投手伊藤亂れず、よくこれを掴みて二壘に投ぜられてフォースアウト。大橋の二匍に太田もフォースアウトせられ、田中投飛に退きぬ。

第二回。(平安)山本のファウルフライを田中よく走って掴み西村左飛、伊藤の大フライを太田美技を演じて捕へ、
(二中)丸山よく選球して四球を奪ひ、牧野三振後、甲斐の一撃一壘頭上を抜くと見えしが、名一壘手内牧の捕ふところとなり、丸山離壘したりしため壘にタッチせられて重殺を喫す。

第三回。(平安)内牧一−一後強ゴロで三壘を襲へば、丸山失してこれを生かし、内海のバントに二進せしが、伊藤弟の二飛に二死となり、大橋の牽制球を二壘手失する間に三盗を企てしが、中堅手山本の機敏なる動作よく三壘にこれを刺す。二中三者凡退。

第四回。(平安)大橋の好投好守に阻まれて、我が堅陣を破り得ず。
(二中)太田遊側強匍安打に出壘、これ彼我が最初を放ちしなり。續く大橋これ送らんとして三壘方面へ絶好のバントを放つ、三壘手これを掴みしとき大橋すでに一壘を踏まんとするを見て壘手狼狽し、高投すれば流石の内牧も留も得ず、遥かに後逸する間に、太田生還し、大橋もホームを陷入れんとすれば、伊藤投手右翼よりの速球を捕手に悪投、大橋も生還。田中、丸山振はず二死となりし後牧野四球を得て出壘し機を窺ひしが、次打者甲斐の二匍に封殺さる。

第五回。(平安)西村、伊藤左飛左直ちに二死の後、内牧二遊間直球安打に出づ、これ彼が最初のヒットなり。内海の二飛に、内牧の安打も効なく。
(二中)凡退。池田の二匍失ありしのみ。

第六回。(平安)三者凡退。
(二中)大橋四球に出で、捕逸に三進せしが後續不振。兩軍盛に投手戰を繰返す。

第七回。津田、西村、山本と平安の重打者枕を竝べて凡退し、我軍の七、八、九番の打棒も不振にして、ラッキイセヴンも事無し。

第八回。伊藤よく選りて四球に出で内牧のバントに二進、内海の一匍を田中呆然たる隙に、伊藤怪足を利して二壘より三壘を經て一氣に本壘へ殺到す。田中周章してホームへ投ぜしが間に合わず、一點を與ふ。ラストバッター伊藤弟投匍して大橋の好守に憤死。
(二中)一、二、三番打者凡退愈々。

第九回。(平安)一點の負を如何にもして奪還せんと奮起せしが、稻田イリガリーバッテドボールに死し、香椎も三匍に空しく、津田最後に三振して我軍に凱歌揚る。
午後5時15分=7時

 平安中學 000 000 010=1
 神戸二中 000 200 00X=2


 〔平 安〕 打得安犠盗三四失
       數點打打壘振球策
 6 稻 田 30000000
 5 香 椎 30000000
 4 津 田 30000211
 8 山 本 30000000
 2 西 村 40000001
 1 伊藤兄 21001010
 3 内 牧 20110000
 9 内 海 20010000
 7 伊藤弟 30000000
   合 計 251121222

 〔二 中〕 打得安犠盗三四失
       數點打打壘振球策
 8 山 本 30000110
 7 太 田 41100100
 1 大 橋 31010010
 3 田 中 30000100
 5 丸 山 20000211
 4 中 野 20000110
 9 甲 斐 30000100
 2 前 田 30000300
 6 池 田 30000100
   合 計 2621101141

《武 陽》
【全國中等學校野球大會兵庫縣豫選大會出場之記】

 兵庫縣豫選大會。おゝそは我等が昨夏來の目標たりしなり。
校友諸兄よ。我等が血と汗と、而して意氣の練習を、必ずや諸兄は目撃して、何らかの感じ得る處ありしならん。

 ユーカリ樹下の春の夕に、雲に絶え入るノックの響、或は又武陽原頭の冬の朝に、白霜を蹴ってボールを追ひし我等が血と涙と汗の練習は果して何處にか存せしや。
嗚呼!それはたゞこの大會にのみありしなり。
 見よ我軍の陣容を。母校愛に燃ゆる我等ナインは、一意技の練磨に務めて今は成り、意氣昂然として堂々矢を甲子園に進めたり。

 劈頭の一戰に當りしは、昔年の強豪神戸商業なり。されど、彼等が輩何ぞ我軍の猛撃に抗し、鐵壁の守備を破り得んや。
 見よ!!その成果を。我軍の亂打亂撃は敵陣を弗亂して餘す處無し。遂に戰ふ事僅かに二回にして敵は陣を撤したり。

 甲子園頭此の日暗雲低迷して、降雨の模様あり。
 水木主審の聲高らかにプレイボールを宣告す。時に午前八時五十五分、我軍先攻にて開始さる。

第一回。我軍トップバッター太田選球後一飛。山本も選球したる後中堅に大フライを揚げたるも、敵将清水に名を成さしめて退けり。續く丸山も二匍して、偵察を終る。
(神商)清水貧弱なる投ゴロ大橋輕く投げて刺す。續く横田三進し、山本も二匍して牧野の好捕に三者凡退す。

第二回。我軍愈々偵察後の總攻撃に移る。先づ悠然としてボックスに立ちたるは、強打者田中、中前へ猛烈な直球を呈して出で、續く大橋の三壘左を抜く強匍安打に走者一二壘に據る、池田の四球で滿壘となりたるとき、投手暴投に田中本壘を陷れ、先づ最初の一點を擧ぐ。次打者前田の遊匍に大橋二壘に封殺されたるも、續く若年打者たる初陣の志摩、中堅難飛二壘打に池田生還し、前田も又投失に生還す。

敵投手頭腦を撹亂されて、我軍の鋭鋒を防ぎ得ず。志摩三壘にあり、牧野四球に、走者一三壘に據る時、太田の二匍に志摩生還、牧野捕失に三進、山本四球を得て後直ちに盗壘、丸山も四球を奪って出で、滿壘の機に田中二度目の中前直球安打を放ちて牧野、山本を還し、我軍の進撃益々急を加へ、一擧六點を奪取し尚ほ攻撃の手を緩めず、大橋四球に三度滿壘となったが、この時暗雲頻りに往來居たりし空より俄かに大雨沛然として到り、遂に一時試合中止の已む無きに到る。

小やみとなりてより、審判は試合の續行を宣告したるも縣商側は續行不能を主張してやまず、審判は遂に縣商の棄権を宣言せり。
この試合たるや我軍甚だ本意ならざりしも、又やみなん哉。

昭和3年7月31日(火)甲子園
▽1回戰
 神戸二中06
 神戸商業0

 (2回裏、降雨中斷後縣商棄権、9−0で神戸二中の勝ち)

 〔二 中〕 打得安二三本犠盗三四失
       數點打打打打打壘振死策
 7 太 田 20000000000
 8 山 本 11000001010
 5 丸 山 10000000010
 3 田 中 21200000000
 1 大 橋 10100000010
 6 池 田 01000000010
 2 前 田 11000000000
 9 志 摩 11110000000
 4 牧 野 01000000010
   合 計 96410001050

 〔縣 商〕 打得安二三本犠盗三四失
       數點打打打打打壘振死策
 8 清 水 10000000000
 5 横 田 10000000100
 9 山 本 10000000000
 3 長谷川 00000000000
 6 樋 田 00000000000
 1 米 田 00000000000
 7 濱 崎 00000000000
 2  乾  00000000000
 4 大 村 00000000000
   合 計 30000000100

〈神戸新聞〉
【第14回全國野球選手權大會兵庫豫選】

昭和3年7月31日(火)甲子園 開始午前9時10分=閉戰10時20分
審判・水木(球)松田(壘)
▽1回戰
 神戸二中06
 神戸商業0

(神戸商業の棄権で9−0二中の勝ち)

 〔二 中〕      〔神 商〕
 7 太 田 9打數3 8 志 水
 8 山 本 4安打0 5 横 田
 5 丸 山 0犠打0 9 山 本
 3 田 中 1盗壘0 3 長谷川
 1 大 橋 0三振1 6 植 田
 6 池 田 5四死0 1 米 田
 2 前 田 0失策0 7 濱 崎
 9 志 摩 1二打0 2  乾 
 4 牧 野 1三打0 4 大 村
 △暴投=米田△捕逸=乾

☆神商棄權し 神戸二中勝つ 二回で九對零☆
△第一回。兩軍零。
△第二回。二中、田中の二壘左寄三壘打を初めその他大橋の三遊間安打、志摩の中越二壘打等に神商四球、暴投、捕逸等相踵ぎ陣容混亂、この間二中一擧六點を擧げ打順一巡し大橋四球に出たがその時降雨激しく一時試合を中止した。その後小雨を待って試合を開始したが神戸商業雨を理由に終に棄権し結局九對零にて二中勝つ。

《武 陽》
◎第二回戰 本校對瀧川中學
 昭和3年8月6日(月)鳴尾
一回戰後連日の降雨に、我九勇士徒らに唸る鐵腕を撫して天候の不利をかこつ。
八月六日、此の日雨氣漸く去って天氣晴朗なり、會せしは好敵手瀧川中學、彼は以前我軍と戰ひて十對九の善戰記録を残して敗れたるもの、舊年の怨を晴さんと意氣物凄く我軍に衡る。
この日我軍士気揚らず、遺憾なる點あり。深く後輩諸生の反省を待つべし。
我軍又先攻策を採る。午前九時二十分開始。球審西川、壘審深川。

第一回。我軍太田ストレートの四球を利して出壘したが、山本の右飛で一死後、無謀な盗壘を敢行し、敵軍酒井捕手の好投に刺さる。續く丸山三遊間匍球安打に出で、剛打者田中の左中間二壘打で生還、田中三盗せしが、大橋の中堅深く戞飛した大飛球も、長谷川に名をなさしめて空し。(得點一、安打二、敵失○)
△瀧中、一死後、竹内よく選びて出壘したれども、長谷川の投直は大橋のファインプレーとなり竹田も一壘に併殺を喫して退く。(得點○、安打○、敵失○)

第二回。我軍池田主将第一球を打ったが遊飛して一死。前田四球を利して出で、志摩の投匍に二壘に達したるも、牧野一飛して退く。(得點○、安打○、敵失○)
△瀧中、吉田、佐藤、酒井の強打者連、大橋の魔球に飜弄せられて空しく陣を撤す。(得點○、安打○、敵失○)

第三回。我軍太田二飛で一死。山本四球を得て出壘せしが、盗壘して徒らに斃る、これ第一回の太田とその位置を顛倒したるのみ。丸山遊飛に止みぬ。(得點○、安打○、敵失○)
△瀧中、奥山三匍して一死後、久米四球を得、更に大橋投手の稀に見るボークに二進せしが、向原左飛、池野遊飛に後續振はず。(得點○、安打○、敵失○)

第四回。我軍田中三壘左を抜く安打に出で、大橋の三側バント、三壘手の暴投に兩走者生きたるも、池田の遊匍に大橋封殺され、池田二盗後前田の二直に併殺されて、田中三壘を空しく去る。(得點○、安打一、敵失○)
△瀧中、竹内、長谷川、吉田、夫々一匍、捕飛、一匍に轉く牛耳らる。(得點○、安打○、敵失○)

第五回。我軍猛撃を開始す。志摩遊撃を誤らして出で、二盗に成功せり。牧野投飛に一死となりしが、太田二匍一失に志摩三進、山本の遊越適時安打に生還、山本盗壘したる後、丸山二匍に太田本壘を突いたが二壘手の好投に、惜しくも刺されたり、此の間に山本三進、丸山盗壘して走者尚ほ二三壘に據ったが、田中一飛に、僅かに一點を擧げたるのみにて退く。(得點一、安打一、敵失二)
△瀧中、佐藤、酒井、奥山物にならず、依然として三者凡退して止む。(得點○、安打○、敵失○)

第六回。我軍、大橋二匍失に出で、池田の遊匍失に二進し、續く前田のバントに大橋、池田二三壘に據りたれども、志摩第一球を輕卒に打って遊撃に獲られ、牧野も第二球を二壘に呈して止む。(得點○、安打○、敵失二)
△瀧中、二點リードされたるため奮然として起ち、先づ久米三遊間安打、向原死球に出で、池野のバントに二者進壘、竹内三振後、長谷川四球で滿壘の機到り、吉田左中間に安打して、二者還り同點となる。長谷川二三間に挟まれてやむ。(得點二、安打二、敵失○)

第七回。我軍、太田右飛、山本遊撃を誤まらしめて出でたれども、丸山中逸、田中一飛に空し。(得點○、安打○、敵失一)
△瀧中、佐藤投飛、佐藤左飛にて二死後、奥山四球を得て、出壘したれども久米の遊匍に封殺さる。(得點○、安打○、敵失○)

第八回。我軍大橋一−一後右前へテキサスと見えしも、右翼手の好捕に斃れ池田静かにボックスに入り、一ファウル後左前へ直球安打を呈して出で、前田の投匍に三壘に送られ、更に志摩の遊匍に三壘に到りしが牧野投匍して遂にやむ。(得點○、安打一、敵失○)
△瀧中、向原一飛、池野三飛、竹内も同じく三飛に空しく凡退。(得點○、安打○、敵失○)

第九回。太田のセイフティーバント成らず、山本、丸山も飛球を打ちあげて、空しく最終回を終る。(得點○、安打○、敵失○)
△瀧中、長谷川二匍内野安打に出壘せしも後續不振にして、得點なし。(得點○、安打一、敵失○)かくて愈々大接戰のまゝ補回戰に入る。

第十回、我軍攻撃を始む。先づ田中遊撃ゴロ失に出で、大橋のバントに送られ、池田中飛に二死となったが、衆望を負ひて立ちたる甲斐ピンチヒッターの二匍失に田中生還して高價なる一點を擧ぐ。牧野三振。(得點一、安打○、敵失二)

△瀧中、決眦して立ち、久米死球に出で、向原のバントに二進し、池野の投匍を大橋、久米を刺さんとして、二三間に挟撃したれども、池田失して走者二三壘に據り、我軍にピンチ到る。この時一死、次打者竹内中堅へ直球安打と見えたれども、我が中堅手山本よく走って、捕へ二壘に投じて、池野を併殺し去る。
かくて我軍苦しく勝を得。

▽2回戰
 神戸二中 100 010 000 1=3
 瀧川中學 000 002 000 0=2

 (延長10回)

 〔二 中〕 打得安二犠三四失盗
       數點打打打振死策壘
 7 太 田 400000100
 8 山 本 401000100
 5 丸 山 411000011
 3 田 中 512100001
 1 大 橋 400010000
 6 池 田 501000001
 2 前 田 300000101
 5 甲 斐 100000000
 9 志 摩 410000000
 4 牧 野 500000000
   合 計 3935110314

 〔瀧 中〕 打得安二犠三四盗失
       數點打打打振死壘策
 7 池 野 300010000
 3 竹 内 400002101
 8 長谷川 302100100
 9 吉 田 300000004
 1 佐 藤 400000001
 2 酒 井 300000000
 5 奥 山 300000001
 4 久 米 310000202
 9 向 原 310010100
   合 計 2922122509