昭和4年(17陽会)1929年

NO6

《武 陽》
◎對神戸一中戰(准優勝戰)
 昭和4年7月28日(日)甲子園
 巻雲烈日をおほふて吹く一きくの涼味さへ覺えて絶好の日和だった。やがて午前は過ぎ一回戰に甲陽を二回戰に御影を三回に育英を斃し獅子奮迅機會を握り敵を襲ひ傳統的なる歴史と生田川岸の練習とは彼等をつひに此處まで抱いて來た。

 我部傳統の為に自重の氣!高なる若人の胸は怪しく燃へたり、球場が定刻前に至るに近づき緊張した空氣をもって滿たされた頃黒雲球場の空低くたれ小雨さえ時々ちらつかせこの日の試合の汎亂を豫想させる。
加藤氏球審、小柴、松田壘審の下に一時を過ぐる事二分半なり。

第一回。(二中)牧野第一球を捕前バントし一壘高投に二走し甲斐三振、丸山遊匍に送られしも別所の左飛に入らず。
(一中)石本四球に出で西田捕前バントに送りしも鈴木遊匍、西松三匍に凡打す。

第二回。(二中)志摩投匍、石原死球に前田四球に送りしも投手牽制に石原掛り中山三失、津久井の二壘ライナーにやむ。
(一中)長井左飛、弘世投匍、井上四球に中道二壘後方テキサスに小野二匍し中山暴投に井上生還し石本四球に西田三匍、丸山二壘暴投して中道、小野續いて還り、鈴木中前安打して石本、西田還る、西松遊匍し鈴木ホースアウトし一擧五點を得。

第三回。(二中)牧野四球後投手西松に代り甲斐四球、丸山投前バントして牧野倒れ再び鈴木プレートに立ち別所三匍すれば一壘暴投に前進し得點、續いて丸山三壘を出で三壘手本壘暴投に生還、又西松に代り石原遊匍、前田投匍に續かず。
(一中)この回津久井を投手に甲斐右翼、前田一壘に交代す。長井第一球を右前安打し出でしも弘世中飛、井上遊飛、中道三振に後援なし。

第四回。(二中)中山三振、津久井遊匍、牧野亦遊匍に退く。
(一中)小野死球に石本の犠牲バント、西田捕手邪飛、鈴木の投前内野安打に送られたが西松遊飛す。

第五回。(二中)甲斐遊匍失に出で丸山の投匍に倒る、別所三振、志摩三匍暴投に生き續く石原の右匍安打に丸山得點したが石原投手牽制に倒る。
(一中)長井三飛、弘世投匍、井上遊匍に凡退。

第六回。(二中)前田中飛、中山一匍、津久井三匍に退く。
(一中)中道左中安打し小野二匍内野安打に出でしが石本遊飛し中道二壘に重殺され續いて西田二匍して小野二壘に斃る。

第七回。(二中)牧野先づ第一球を快打すれば右翼越三壘打となり自重してホームを窺はず甲斐の右前テキサスに祐々生還し丸山右飛、別所又第一球を中前安打し志摩遊匍して甲斐死す。石原又右翼安打に別所生還、同點となる。試合はラッキー熱狂最高潮に達す、前田左飛に止む。
(一中)鈴木遊匍に西松左翼安打し長井三匍して丸山の暴投に生還、弘世左飛、井上二壘直後のテキサスを放ちしも中道の投匍に止む。

第八回。中山三匍、津久井二匍、牧野三匍に退く、又鈴木に代る。
(一中)小野右翼ライナー安打し石村の投匍バントに送られ西田の左飛に進み鈴木の中前安打に還る、西松三匍に終る。

第九回。(二中)最後の攻撃である。二點の差!甲斐遊飛、丸山投匍、別所二飛、嗚呼戰は終局をつげた時正に丁度二時、我が親愛なる校友諸君の熱血の應援!今は聲をひそめ我等の無力を歎じたでありませう!諸君我々は全力を集注致しました。

 傳統にも母校愛の為にも、諸君!あの脱衣所の二階から諸君の悲想をよく窺ひました。「快勝」の大旗を高く掲げて行く一中應援團よりも諸君の熱誠は選手は必ず受けました。然し我々は泣きました、涙をかくの如き時出さざるは人間ではありません。

 諸君!思って見てやって下さい。常平生の練習を御存じの筈です。泣く涙にこそ貴い愛校心の賜であります。心の奥底の精神は宿ってゐます。大會の望みは捨てました。然し今後の奮闘に諸君の熱血を吹き込んで戴きたい事を希望致します。

▽准優勝戰
 神戸二中 002 010 200=5
 神戸一中 050 000 11A=7


 〔二 中〕 打得安犠盗三四残失
             死  
       數點打打壘振球壘策
 6 牧 野 412000111
 19 甲 斐 411001100
 5 丸 山 520110002
 2 別 所 511001010
 8 志 摩 300000131
 7 石 原 302000110
 93 前 田 300000111
 4 中 山 400001010
 31 津久井 400000000
     計 3556113585

 〔一 中〕 打得安犠盗三四残失
             死  
       數點打打壘振球壘策
 2 石 本 110200211
 4 西 田 410100010
 16 鈴 木 502010020
 61 西 松 511000010
 7 長 井 401000020
 8 弘 世 400000000
 5 井 上 311000113
 9 中 道 412001000
 3 小 野 322000110
     計 3379311494


〈朝日新聞〉
 昭和4年7月28日(日) 甲子園 開始正午=閉戰午後2時
 球審・加藤、壘審・小柴、松田。ベンチ・二中三輪氏、一中吉本氏
▽準決勝
 神戸二中 002 010 200=5
 神戸一中 050 000 11X=7


 〔二 中〕 打安犠三四盗刺補失残
       數打打振死壘殺殺策壘
 遊 牧 野 4200104511
 投右甲 斐 4101110100
 三 丸 山 5000001220
 捕 別 所 5101013101
 中 志 摩 3000101013
 左 石 原 3200103001
 右一前 田 3000107011
 二 中 山 4001001101
 一 津久井 4000004400
    計  2560352241458

       打安犠三四盗刺補失残
 〔一 中〕 數打打振死壘殺殺策壘
 捕 石 本 1020203011
 二 西 田 4010013100
 投遊鈴 木 5300010812
 遊投西 松 5100002301
 左 長 井 4100002002
 中 弘 世 4000001000
 三 井 上 3100103341
 右 中 道 4201001000
 一 小 野 31001012102
     計 3393142271669
 △重殺=牧野、中山△二壘打=牧野

▲第一回。(二中)牧野第一球を捕前にバントし捕手の高投に一擧二進したが三者凡退。
▽(一中)石本四球西田たくみに送ったが續く二者凡打。(兩軍零)
▲第二回。(二中)一死後石原死球、前田四球に出たが石原牽制されて死し中山三匍失に出たが津久井二匍。
▽(一中)長井左飛、弘世一匍に二死となったが井上四球、中道二前安打に出で小野の二匍野選となりし時遊撃手本壘に高投して井上還り、更に石本四球に出で西田の三匍を二壘に高投し中道、小野二者生還、石本三壘におよび西田二盗の後鈴木中前に絶好の安打を飛ばし二者還り西松の遊匍に鈴木本壘に刺されこゝに一擧五點を奪ふ。(二中零、一中五)
▲第三回。(二中)牧野、甲斐四球、丸山投匍に牧野封殺、別所の三匍、野手本壘に悪投、甲斐、丸山續いて生還後援なし。
▽一中凡退。(二中二、一中零)
▲第四回。二中無為。
▽一中、二走者あったが得點なし。(兩軍零)
▲第五回。(二中)甲斐遊匍失、丸山の投匍に封殺、別所三振二盗後志摩三匍一失に三進、石原の一壘横安打に生還。
▽一中三者凡打。(二中一、一中零)
▲第六回。二中凡退。
▽(一中)中道左前安打、小野の二匍野選に兩者生きたが石本の遊飛に重殺後續かず。(兩軍零)
▲第七回。(二中)牧野右越三壘打、甲斐の左前テキサスに生還、丸山右飛、別所二壘安打、志摩遊匍して甲斐封殺されたが石原左中間安打して別所長驅生還、こゝに同點となり前田左飛、場の熱狂最高潮に達す。
▽(一中)一死後西松の遊側安打、長井の三匍二壘暴投し九−四−三失に生還、後井上の安打あったが點とならず。(二中二、一中一)
▲第八回。二中三者凡打。
▽(一中)小野一壘頭上を抜くライナーで出で石本の犠打に送られ西田左飛後、鈴木投手下を抜く安打に生還。(二中零、一中一)
▲第九回。二中最後の攻撃に入ったが甲斐遊飛、丸山投匍、別所二飛に萬事休し、七對五で二中惜敗。