大正6年(5陽会)1917年

NO3

《武陽》 大正6年12月發行
【兵庫縣野球大會出陣之記】
◎對神戸商業戰(八月四日)
 戰はん哉時到る。我が劈頭の對敵は縣立商業なり。彼もひそかに期する所ありと聞く。見参なれば好敵、亦一蹴に附せんのみ。午後三時我軍の先攻にて開始さる。

 第一回。先頭打者山脇先づPゴロに退きしも、島田、渡邊相次いで四球に出で、好機は先づ我を見舞へり。されど三宅の遊撃ゴロに島田は三壘に進みしも、渡邊は二壘に強殺され、岸本三振して無為。
○代りし敵軍は坪井四球に出で、投手の暴球に二壘を得しのみ、他は悉く凡打。

 第二回。木村投手を過らして出で二壘を盗む。初陣の松本次に起ち天晴、左翼に快打し、木村を生還せしめて二壘に進む。田中死球を受けて出で、松本の投手牽制球に斃るゝを見るや早速二壘を奪ひ、北澤のバントに三壘に至り、好漢山脇の絶好の中堅タイムリーヒットを待ちて勇躍生還。
 山脇は痛快なる盗壘を重ねて三壘にあり、尚も奪はむとせしが、島田不正打撃に死して止む。されど堂々たるアーンドラン二箇を先取して意氣虹の如し。

○敵軍周章して攻め、網干三壘の失に生き二壘を盗みしも、投手に計られて死し、同弟はナットアウトに斃る。後藤、大西四球に出で三二壘に據りしも、森口のフライ、北澤悠々とグラブに収む。

 第三回。渡邊、三宅、岸本皆凡死して乗ずる能はず。
○岸本、木村と交代して投手たり、竹下初めて安打せしも二壘を盗まんとして三宅、松本に田楽刺に合ひ、生田、西澤は四球に出でたるも、坪井、網干難なく三振に弄さる。

 第四回。振はざるは敵のみに非ず、我軍も又三者凡打と三振とに終る。
○敵は奮起しぬ。先づ網干弟四球を利し、後藤の遊撃ゴロに強殺されしも、大西安打して二走者一死なり、左打者森口立つ。−戞!計らざりき、彼の打球は左翼邪球線上に飛びて三壘打とならんとは。走者皆歸り忽ちにして同點となる。

 敵軍一時に競ひ立ち、一番打者躍って出で我軍のバントに備へて浅く守れる頭上を直球にて抜き、森口躍然として生還。竹下二壘を得。岸本大に締り坪井を三振に終らしめ、生田を一壘手の小失に生かしゝも、續く網干をPゴロに打取り、危機漸く去る。一點を勝越したる敵軍正に狂死せんとす。

 第五、六回。高が商業輩に何事ぞと我軍憤激止むなく、追撃急なりしも時未だ到らず何等成すなく終る。

○而して守備に於ては木村再びプレートに立ち、渾身の精力を傾注して投ずる魔球を以て敵軍を片端しより弄殺しての一の機會をも能へず。

 第七回。激戰數合、戰は進みて七回に入りぬ。時こそ到れ、いざや猛撃、一擧に敵陣を突破せんと、我戰士眥を決して起つ。二者敢なくアウトを宣せられしも、北澤遊撃を強襲して生き、二壘を盗む。萬目一に次打者山脇の打棒に集り、彼の一打に待つや切なり。果然、一揮せし彼の鐵棍には戞然の響あり、南無八幡の快打は心地よくも左翼を破りて痛烈のタイムリー二壘打たり。

 得たりと北澤躍進、一呼に本壘を征す、歡聲囂々我軍の熱狂極點に達して、士氣一時に振き立つ。好漢山脇の功や正に至大なり。島田次に立てば、山脇猛然と三壘を盗む。斯くと見たる島田、斯うよと右翼に快打を浴せて、山脇をホームに迎へ、痛快なる盗壘を敢行して三壘を奪ふ。渡邊尚もと務めしも邪球を三壘に捧げて斃る。
 されど奮撃見事效を奏して、一點を勝越して此の上はしまれと意氣軒昂。

○敵軍焦りに焦り、一死後西澤、左翼の失に三壘を陥れしも、後援無く四回以後唯一の好機を逸す。

 我軍此の機を逸すなと、八回の劈頭三宅中堅に痛打せしも先を急ぎて二壘に刺され、以後振はず、最後迄遂に得る能はず。敵軍必死と挽回に務むるとも、辛辣を極むる我投手木村の魔球をば如何せん。九回坪井の貧弱なるテキサスリーガー一本を残して、四對三遂に矢盡きて我軍門に降れり。

▽1回戰
 神戸二中 020 000 200=4
 神戸商業 000 300 000=3

        打得安盗三四
  〔二中軍〕 數點打壘振球
 B3 山 脇 412300
 LF 島 田 301201
 B1 渡 邊 300001
 C  三 宅 401100
 SS 岸 本 400110
 P  木 村 410100
 B2 松 本 401000
 RF 田 中 310131
 CF 北 澤 310100
     合計 32451043

  〔商業軍〕
 SS 竹 下 502100
 RF 坪 井 401021
 LF 生 田 400111
 P  西 澤 300001
 CF 網干兄 401110
 B1 網干弟 300021
 B3 後 藤 310111
 C  大 西 311121
 B2 森 口 411000
     合計 3336596

〈朝日新聞〉
大正6年8月5日(日)東遊園地 午後1時10分開戰(審判)球審・柳川 壘審・西内

▽2回戰
 神戸二中 010 003 020=6
 御影師範 001 000 000=1


 〔二 中〕     〔御 師〕
 5 山 脇     5 石 田
 7 岸 本     4 藤 川
 3 渡 邉     2 稻岡(大)
 2 三 宅     3 伊 藤
 6 木 村     6 前 田
 8 北 澤     9 藤本(虎)
 4 松 本     1 稻岡(小)
 9 箕 輪     7 西 垣
 1 島 田     8 藤本(今)
 失三四安打     失三四安打
   死         死
 策振球打數     策振球打數
 543435     831334

▲第一回。二中無為に終り御影亦凡打に終る。
▲第二回。二中三宅四球に出でしも二壘に要殺され木村遊匍に死せし後北澤遊三間にシングルを放ち二壘を盗み更に三壘を強襲せんとする時捕手の悪投壘手逸して北澤入壘一點を擧ぐ、御影伊藤三匍に前田遊匍に退き藤本(虎)投失に出でしが二壘を盗まんとして刺さる。

▲第三回。二中箕輪三壘強匍に次で島田遊匍に續きしに山脇の遊飛に箕輪、島田併殺を喫し藤本の一匍に無為、御影小稻岡三匍の失に出で二壘を盗み藤本(今)の二匍に送られて三壘に及びし時石田遊三間にタイムリーヒットを放ちて大に主将振りを發揮して小稻岡入壘同點となり。

▲第四回。二中悉く投手ゴロに退き御影一死の後伊藤遊越安打に出で前田遊匍の失に續き藤本(虎)の二飛の死後小稻岡遊撃を過らして滿壘の好機來りしも西垣の遊匍小稻岡を二壘にホースして已む。

▲第五回。二中一死の後松本三失に活き二壘を強襲し箕輪四球に續きしも後援振はず御影二死の後藤川遊失に大稻岡四球に出でしも伊藤の三匍に藤川詰殺さる。

▲第六回。二中岸本右翼安打に出で盗壘し渡邉の二匍に三壘に及び三宅のバントを仕損ずるや岸本輕擧出足を急いで刺され二死を算せしが三宅右翼安打、木村遊左の連失に出で北澤の右翼の快打一壘手の連失となり三宅、木村相踵いで入り北澤又松本の安打に入り得點一擧三點の大を加へ御影攻めて無為。

▲第七回。二中無為、御影又凡打。
▲第八回。二中渡邉中飛に出で三宅遊匍に木村死球に無死滿壘となる此時北澤の三匍壘手高投して渡邉、三宅を入れ得點合して六を數へ大勢全く定まり御影好機を逸す。

▲第九回。二中凡打の後御影最後の攻撃に移りしが藤本(虎)の三飛に小稻岡三振、西垣投飛に萬事休し結局六對一を以て二中の勝となる。

〔概評〕御影投手稻岡の出来頗る良く最初の程は勝敗何れともつかなかったが、六回二中の奮闘効を奏して一擧三點を得て勝つ、御影捕手稻岡は沈着を缺き屡逸球して生還を許したのが敗因となった。
 然れども元氣よく最後まで緊張して試合を續けたのは大出来である。二中の北澤安打二、生還二にして六回の三點は彼に依って得られた當日の殊勲者と謂ふべきであろう。

《武 陽》
◎對御影師範戰(八月五日)
 開戰時刻午後一時。敵軍先づ守備に就く。審判柳田、西兩氏。
 第一回。兩軍一壘を踏む者のなし。
 第二回。二死後、北澤左翼に快打を放ちて、二壘を盗み、次で三壘盗奪を企てゝ捕手の暴球に一擧本壘に入り、先づ最初も一點を擧ぐ。
○敵軍無為。島田の投手振、鮮なり。

 第三回。敵軍稻岡(小)、三壘の失に初めて生きて、二壘を盗み、後援を得て三壘に據る時、石田左翼に安打して稻岡生還、同點となる。

 第四回。渡邊、三宅、木村、揃ひも揃って投手ゴロ。
○伊藤の快打あり、我軍の失策一あり、二死滿壘となりしも、大事なし。

 第五回。兩軍共二走者を出しゝも得點に至らず。
 第六回。打順良し、行けと岸本劈頭ボックスに立ち、痛快なる快打を右翼に戞飛して二壘をスティールし、渡邊の犠打に三壘に進む。
 されど次打者三宅とのスクイズプレー惜しくも三本壘間に斃れ二死となる。三宅憤然遊撃に熱球を送りて出で、木村次いで三壘の失に兩者一二壘に立てば、快漢北澤再度の安打を右翼に放つ。

 得たりと三宅長驅本壘に殺到すれば、一壘手本壘に投球すれども及ばず、その生還を許し、捕手亦其の投球を逸せしかば、木村も一擧本壘を陥れ、北澤三壘に進む。續く新進松本我もと中堅に絶好の安打して北澤の生還を援く。
 斯くて我軍好打續出一擧三點を抜く。

 第七回。兩軍三者凡退、ラッキーセブンも空し。
 第八回。渡邊飛球に中堅を過らすや、三宅内野安打に續き、木村死球に出でゝ無死滿壘の絶好のチャンス來る。北澤衆望を負うて立ち、熱球に三壘を襲へば、壘手周章一壘に暴投して渡邊、三宅駒を竝べて生還。されど木村は松本のPゴロに、北澤は箕輪とのスクイズプレーに何れも本壘に殺到して斃る。

○敵軍奮はんとして一死後稻岡遊撃の失に出で、伊藤の安打に三壘に至りしも、空しく我軍に封じられて止む。
 最後の奮闘も效なく、戰は六對一我軍の大勝を以て閉ぢられぬ。

▽2回戰
 神戸二中 010 003 020=6
 御影師範 001 000 000=1

       打得安盗三四
 〔二 中〕
       數點打壘振球
 5 山 脇 500010
 7 岸 本 501100
 3 渡 邊 410100
 2 三 宅 321101
 6 木 村 310001
 8 北 澤 422200
 4 松 本 401300
 9 箕 輪 300011
 1 島 田 400020
    合計 3565843

 〔御 影〕
 5 石 田 401000
 4 藤 川 400100
 2 稻岡大 300001
 3 伊 藤 402100
 6 前 田 400000
 9 藤本虎 400000
 1 稻岡小 410110
 7 西 垣 400010
 8 藤 本 300010
    合計 3413331