大正10年(9陽会)1921年

NO1

《武陽20号》大正10年12月發行
◎對神港商業戰  大正10年4月23日(土)神戸二中
 野澤、松浦、名倉の三重鎮を送りし吾部は、幾多の新進を加へて陣容を改め、新興の強チイム神港商業の挑戰に應じ本年度劈頭戰を武陽原頭に開始しぬ。敵軍先攻、審判、橋本、猿渡兩氏。

第一回、先登を承ったる内海、井垣投手の肩未だ慣れぬに乗じて四球を選び、秋田の三振後二壘を盗みしも、将積捕手の牽制球にたふさる。吉岡遊失に出でしも永井の三振にてスタンディング。

▲我軍代って攻む。新主将田中腑甲斐なくも三振。梅田四球を得しが将積凡打、井垣三振に倒れて續かず。
第二回、三谷、竹島共に四球に出でしが、何れも二壘を盗まんとして将積の好投に刺さる。小島三振。

▲一死後新進難波見ん事中堅に安打して出づ。されど惜らくは楠見當らず、難波また二壘スチイルに倒る。
第三回、神港丸泉Pゴロの後、町田手酷き死球を喫して出づ、内海三振後、秋田四球に出でゝ我軍を脅せしも、吉岡の難飛球を楠見よく掴んで喰ひ止む。

▲稻田四球を得金澤代走す。投手の牽制球を一壘手失し、一壘手更に二壘に暴投するに乗じて、一擧三壘を奪はんとせしも、可惜、左翼手の三壘好投球に刺さる。宇野、田中相尋いで三振。金澤三壘へスライドせる際足を傷めて退き平田代って遊撃を守る。
第四回、永井二匍、三谷、小島三振。

▲我軍一死後将積四球に出でしも、井垣のバント飛球となってダブルプレイの憂目に遭ふ。
第五回、一死後八番丸泉敵軍最初の安打を放って大に氣を吐きしが、續く町田一壘に飛球を揚げて丸泉と共に併殺さる。

▲我軍平田三振、難波遊匍、楠見三振何れも無為。
第六回、内海遊匍高投に生きしも、後續者悉く井垣の為に飜弄さる。

▲稻田内野安打に生き、宇野二壘の野手選擇に出づ。田中三度三振せしも、梅田四球を得て滿壘となる。されど将積バントを過り、井垣三振して好機遂に去る。
第七回、兩軍未だノーインニングなり。神港奮起し一死後小島四球を選んで出でゝ二壘を盗む。

 竹島の匍球を平田ミスせる為め小島三壘に迫り、竹島は二壘を獲得す。丸泉再び投手を抜きしも、小島還らず。町田の中堅安打に漸く生還す。竹島又其後を追ふ。田中何のと矢の如き速球を遠く本壘に送って彼を憤死せしむ内海再び三振。

▲ラッキーセヴンよく敵軍に幸ひせり。我も亦振はざるべからず。然るに何事ぞ。平田は三振に退き、難波は四球に出でしも、楠見三振、難波の二壘盗奪成らざるとは。
第八回、秋田遊失に生くるや、續く吉岡の猛打中堅越の大飛球となって、秋田と共に一擧本壘を衝き、歡聲敵軍に湧く。井垣大に踏張り、永井は左飛に、三谷を邪飛に討取り、小島三振に止めを刺す。

▲我軍稻田、宇野相尋いで三振し、田中中堅に快打したるも後援續かざりき。
第九回、戰は終に最後の幕となる。手輕く敵を退けて後、猛然立って總攻撃を開始す。将積先づ四球を利して出で、井垣の犠打に二壘に進み、吉岡の牽制悪投に三壘に達す。

 平田の三振後、難波も同じ轍を踏みしが、吉岡球を後逸したるにより、一壘に生き、将積本壘を突いて一點を恢復す。續く楠見右翼に安打すれば稻田また二壘を破って難波を生還せしめしも、楠見の本壘突撃功を成さず、可惜好機を失せり。敵軍三對我軍二。

 神港商業 000 000 120=3
 神戸二中 000 000 002=2

 〔本校〕   〔神港〕
 8 田 中  6 内 海
 3 梅 田  3 秋 田
 2 将 積  2 吉 岡
 1 井 垣  1 永 井
 6 金 澤  5 三 谷
 5 難 波  6 小 島
 4 楠 見  4 竹 島
 9 稻 田  9 丸 泉
 7 宇 野  7 町 田
 (6)平田

《武 陽》
◎對姫路中學戰 大正10年5月15日(日)姫路中學
 神一中對校定期試合を失ひし我部は、先に北野中學との定期戰を行ひ、茲に新たに白鷺城下の雄姫路中學と、毎年春秋二回合戰する事とせり。而して其第一戰を彼地の校庭に行ふ。午後一時四十分、高瀬主審のプレイの聲に球戰は開かる。壘審は吉川氏。

 第一回、我軍先攻。梅田劈頭投手を強襲して生き、難波、井垣續いて中堅に安打せしに乗じて早くも入壘、木谷遊撃を失せしめて難波生還。金澤二壘を攻め、淵岡本壘に投球せしも及ばず、井垣も亦入壘、木谷は捕手の逸球に又も入壘、田中四球に續きしも宇野投匍に倒れたり。されど僅かに一死のみ。

 楠見美事に遊撃に安打して金澤を本壘に入らしむ。楠見の二壘盗奪に氷室の投球を壘手落球、田中その間生還。楠見快走三壘を奪取す。ラストバッター将積中堅めがけて深く大飛球を揚ぐ。この犠牲打に楠見勇躍本壘を征す。梅田一匍に止みしも打順一巡し、得點七を算す。大勢已に定れるに似たり。

▲代る姫中佐伯四球に出で、逸球と盗壘に三壘に據りしも、淵岡、伊藤續いて三振、原二匍に退けらる。
第二回、我軍輕く打って退く。

▲敵軍一死後北條左翼越の三壘打に出でしも、小林三振、瀬戸投手直球に點を成さず。
第三回、金澤先づ中堅安打に出で、田中の四球に進出しも、宇野三振後楠見の三匍は可惜金澤を詰殺せしむ。田中奮然三盗して成功し、将積の三失に生還、一點を増す。将積二壘に走って刺さる。

▲一死後佐伯遊撃安打に出でゝ二壘を盗みしも、後續みな凡死。
第四回、難波遊失に出でゝ逸球に進みし外無為。

▲氷室内野安打に出でしも後援無し。
第五回、我軍更に振はず。

▲敵軍佐伯三壘上を抜く三壘打に出でしも、二死後にして得點するに到らず。
第六回、楠見再び二壘安打に出でゝ二三壘を連盗せしも後援續かず。

▲伊藤中堅に大飛球せしも田中快走よく掴むで名を成さしむるのみ。原一壘越の安打を放ち、氷室の三失に三壘に及びしも、北條のバント拙劣にして、遂に三本壘間に挟撃さる。然るに氷室猛烈なる突進に三壘を奪ひ、更に本壘に滑ってセイフ。敵の應援團欣喜雀躍す。小林四球を得しも瀬戸三振す。
第七回、井垣遊匍一失に出で、二死後三壘に達せしが、田中三振に為す無し。

▲姫中一死後佐伯右中間に二壘打せしも大事を成さず。
第八回、我軍依然振はず。

▲敵軍二死後氷室四球に出でしが、二盗成らずして終る。
第九回、一死後難波三失に出でしも、井垣の二匍に死せる間に、一擧三壘に突進可惜原の好投に戰死す。

▲敵軍今や必死。先登北條中堅に安打し、小林の死後瀬戸、品川の飛球を夫々二壘、遊撃失せしかば遂に滿壘。敵陣ために色めく。佐伯の投匍北條を封殺せしめしも淵岡四球を選びたれば、ワンバイワンに得壘して瀬戸生還。伊藤の内野安打に品川、佐伯入壘。

 機に乗じて主将原中堅の本壘打をかつ飛ばし、淵岡、伊藤と共に悠々本壘に入り、得點積んで七を算す。得點の差僅かに一。敵狂喜す。
 氷室猶も左翼に安打せしも北條Pゴロに憤死して亂戰漸く収まる。時に四時。我軍危く勝つ。得點八對七。

 神戸二中 701 000 000=8
 姫路中學 000 001 006=7

 〔本校〕   〔姫中〕
 3 梅 田  6 佐 伯
 9 難 波  4 淵 岡
 1 井 垣  8 伊 藤
 6 木 谷  3  原
 5 金 澤  1 氷 室
 8 田 中  7 北 條
 7 宇 野  2 小 林
 4 楠 見  9 瀬 戸
 2 将 積  5 品 川